札幌市は10月3日、北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピック冬季競技大会のガバナンス体制の在り方等を検討する「第3回北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピック冬季競技大会に向けた大会運営見直し案に関する検討委員会」を札幌市内で開催しました。
はじめに、札幌市が7月に行った大会運営見直し案の中間報告以降の検討経過について事務局より説明が行われ、より専門的な議論を行うために委員会内にガバナンス関係部会とマーケティング関係部会の2つの専門部会を立ち上げたことを報告。また、7月に公表した中間報告をもとに東京2020大会のパートナー企業や地元の冬季競技団体、東京2020大会組織委員会に派遣されていた札幌市の職員を対象としてヒアリングを実施して意見を集約したほか、市民対話事業に寄せられた意見についても専門部会の議論の参考とし、その一部は見直し案にも反映していることを説明しました。
■ガバナンス、マーケティング関係部会からの報告
次に、新たに設置した各専門部会における議論についての報告が行われました。まず、ガバナンス関係部会の検討について篠河清彦部会長が説明。部会で理事会、人員配置、監査体制、調達管理等について意見交換を行った結果、理事会における議論の質の向上・実効性担保の観点から理事の人数は20名程度が適切ではないかということ、利益相反を適切に管理するためのルール設定や組織体制の構築が不可欠であるということ、また監査体制の構築においては内部監査室の常駐人員を厚くし、各監査の統括・調整を担わせることで監査の効果を高めることができるのではないかという意見等が出されたことを報告しました。
続いて、マーケティング関係部会の議論に関して大川哲也部会長が説明しました。マーケティング事業における代理店の位置づけについて、(1)専任代理店方式(1社)、(2)複数企業で構成されたグループ方式、(3)複数代理店方式、(4)組織委員会単独方式(代理店を使わない)の4つの手法に関してメリット・デメリットを検討した結果、部会としては1社に権限が集中してしまうリスクが低く、参画した代理店それぞれの強みを生かしながら、かつ競合しない形でセールスを行うことが可能となる「(2)複数企業で構成されたグループ方式」が望ましいという意見で一致したと報告。また、代理店の位置づけの議論の大前提として、組織委員会の中にマーケティング業務に精通し代理店をコントロールできる人材を確保するなど、代理店を適切に管理・監督できる体制を構築することが何よりも重要であるということも、部会の一致した意見であったことを補足しました。
■大会運営見直しの原案を発表
次に、各専門部会で行われた議論や市民対話事業などで寄せられた意見を踏まえて策定された、札幌市による大会運営見直しの原案を事務局が発表し、中間報告でも示した以下の6つの分野に関して「より具体化する形で構成した」という見直し案のポイントをそれぞれ説明しました。
1 理事会の在り方
【見直し案のポイント】
・理事会を実務的な集団にすること
・多様性を確保するため、幅広い年齢構成とし、女性理事割合50%程度を目指すこと
・理事会の規模は20名程度とすること
・役員の選考プロセスや選考基準、選考理由を公表すること
・一部の理事は公募により選考すること
2 マーケティング事業の在り方
【見直し案のポイント】
・ノウハウを有する人材の確保や代理店からの出向者の適切な人員配置、スポンサー選定委員会の設置等により、組織委員会が主体的にマーケティング事業に取り組める体制を構築すること
・1社独占による不正リスクの抑制のため、複数企業が参画可能な代理店活用の仕組みを検討すること
3 利益相反管理の在り方
【見直し案のポイント】
・利益相反ポリシーの策定
・民間企業出向者を出向元と利害関係が生じる部署の長に配置しないこと
・出向者等からコンプライアンスに関する宣誓書を提出させるなどして利益相反に関する意識を高めること
・利益相反管理委員会の設置
・役職員全員に対するコンプライアンス教育の徹底
4 調達の在り方
【見直し案のポイント】
・調達管理委員会の機能を強化し、不正リスクを意識した管理体制を構築
・業務内容の適切な切り分けやスケジュール管理の徹底などによる競争性・公正性の確保
・必要に応じた第三者による価格検証の実施
・調達関係の情報の積極的な公表
5 情報開示の在り方
【見直し案のポイント】
・札幌市の公文書公開制度に準じた情報公開制度の導入
・経費などの積極的な情報開示
・様々な手法・媒体による主体的・タイムリーな情報発信
6 実効性の担保
【見直し案のポイント】
・特別措置法によって、強力な権限を有する外部委員会等を設置すること
・従来の監査体制(三様監査)の強化と、新設する外部委員会等を含めた四様監査の連携による組織委員会の適時監視
・出向元の組織と連携した懲罰制度の構築
これら6つの分野における具体的な見直し案の説明の中で、事務局は組織委員会解散後の不祥事対応方針についても言及。札幌2030大会においては万が一、組織委員会解散後に不祥事等が発生・発覚した場合には、札幌市と関係機関が連携して速やかに原因究明等を行い、清算法人や理事等の関係者から情報提供等の協力を得ることなどを危機管理マニュアルに整理することを述べました。
■各委員からの意見
次に、これら事務局による大会運営見直しの原案の説明を受けて、各委員がそれぞれ意見を述べました。
朝倉由紀子 北海道経済連合会 理事
「前回大会(東京2020大会)で本当に様々な問題があったかと思いますけれども、こういった問題が起きたからこそたくさんの課題点が浮き彫りになり、次回の大会がより良い大会になるチャンスなのではないかと思っております。今回の見直し案にもありましたように、オリパラに関しても積極的な情報開示等がとても重要になってくるのではないかなと思っております。また、市民や道民、国民の皆さんにも正しい情報を見極めて、他人の意見等ではなく正しい情報から自分自身はどう考えていくのかというところをぜひ判断していただけたらなと思っております」
大川哲也 弁護士
「今回の方策では、組織委員会の人選、諸々を監視監督する機関の人選等、数多くの専門的な人材を必要としており、不正を見抜くというのも、やはり並大抵のことではないと思います。そのような人材をどのように集めるか、まずこの点が肝要だと考えます。また、専任代理店方式を採用しなかったという点は評価できると思いますが、現実問題として広告代理店を外せないということであれば、グループ方式としたうえで、グループ間のけん制機能をどのように具体的に働かせるか、その仕組みの構築が更なる課題になるのではないかと考えております」
金澤亜紀子 札幌商工会議所青年部 常務理事
「東京2020大会以外にも過去の事例を踏まえて、できる限りの対応と対策について私たちも意見させていただきましたし、札幌市としても考えられているのではないかと思っております。地域企業を巻き込むという部分に関しては、非常に好感を持って受け入れております。この色々考えられた『札幌方式』という形で、日本のみならず世界に発信して、『こういう形でやっていけば不正が起きない形で実現できた』とするためにも、更にこれをブラッシュアップし、新しい事例を加えて対策をとっていただいたりしながら、より良い運営をしていただくのが大前提でありますが、不正が起きないというのは当たり前のこと。アスリートの方たちが主役になれるようなオリンピック運営ができればと考えております」
川端絵美 北海道スキー連盟理事 総務本部長
「税金を投じないで、なんとかスポンサー収入で、夢を叶えてもらう大会を実施しようとするところにおいて、どのようにスポンサーを集めていくか、今まで当たり前だったことを変えようとした議論が、2030に向かっていく、そして今後継続的に繋がっていくことになればいいと思って議論をさせていただいた。JOCと2030年に立候補する都市がジョイントしてマーケティングをすることによって、選手強化費にも使われていくということは、今夢を持って世界で頑張りたいという子どもたちにも大きな一歩になる。私たちが目指していくものが実効性のある内容であって、続けていけたらいいなと思います」
國井隆 公認会計士
「実際に走り出した時に、当初想定していないことがあった時にも、きちんと臨機応変に対応できるようにすることも大切。『オールジャパン』をマジックワードとして使うのではなく、より普通のものとして組織運営をしていかないと、いつまで経っても変わらないのではないか。やはりそのためには人材。今まで東京大会で携わった方、あるいは世界水泳に携わった方、アジア大会、これから携わられる方も含めてきちんと対応して、その方々が知見やノウハウを活かして、新しい『札幌モデル』に対しても力を入れてやっていただくことが重要。スポーツの中での人材の横の連携というのが非常に大切なのかなと個人的には思っています」
篠河清彦 公認会計士
「マーケティングの関係について、スポンサー収入の確保が必要だということと、代理店に過度に依存しないこと、その両方を満たすにはこの複数企業で構成されたグループ方式というのがよいのかなと個人的にも思っております。また、ガバナンス部会については、一応の方向性は決まったのかなと思いますが、これを具体的に落とし込んでいく時に相互に矛盾が出ないようにしていくことが大変だと思うので、その辺りをこれから期待して見守りたいと思っております」
武田丈太郎 北海道教育大学岩見沢校 芸術・スポーツビジネス専攻 准教授
「見直し案はあくまでも手段であって、どうやって実行するかというところが今後の大きな課題になってくるのかなと思います。ちょっと苦言になるかもしれませんが、スポーツ施設をどこに建てるかというような問題も含めて一体的にちゃんとリンクさせて、札幌市としてのビジョンを示しておくということが必要なのではないか。このオリンピックを用いて札幌市の市民と、市の職員や関わる人たちが同じ方向を向けるような大会に持っていくということが重要なのではないかと考えております」
畑中悦子 札幌スケート連盟 副会長
「私が常に心に思っていることは、誰のための大会なのか、ということを思っています。以上です」
原田宗彦 大阪体育大学 学長
「こういった議論をこの会議体の中だけでやるのではなく、ぜひ戦略的にIOC委員が読むようなメディア媒体に発信して欲しいと思います。例えばInside the gamesなど、よくオリンピック関係者が読むところに札幌市から情報を提供していくと、『東京大会でこういうことがあったけれども、札幌市はこういうふうに改善しながら2030年を目指すんだ』という、攻めのマーケティングを国際舞台でやっていく。今回議論していることやこの資料は、世界的なスポーツの競技団体やメガイベントのライツホルダーにとってはすごく魅力的で先進的な議論だと思います。そういう意味で、札幌すごいな、やってるぞ、という姿勢をぜひ見せていただいて、この国内の議論を海外の人たちに喧伝していくというような情報戦もしっかり意識していただけたらと思います」
生田圭 弁護士(座長)
「『実効性の担保』について、具体的な施策を講じた後に、いかにその施策を守っていただくかというのも非常に重要な部分。いざ招致が決まって2030年大会をやりますということになった時、組織委員会がこの具体的な案を採用しないということは、理屈としては考えられるところではありますので、札幌市として、この原案の内容をどのような形で組織委員会に具体的に落とし込んでいくかというところも、一つ議論にはなり得ると思っています。良いものを作っていただいたと思いますので、実装していく段階で組織委員会とのコミュニケーションを図って、うまく進めていっていただきたいと思います」
最後に事務局より今後の進め方についての説明があり、今回の会議をもって検討委員会はいったん一区切りとし、今回寄せられた意見等を踏まえて、さらに見直し案の検討を進め、市議会にも報告したうえで策定・公表していくことが述べられました。また、東京2020大会の事案に関する司法手続きが未だ継続中であることから、新たな事実等の判明に伴う修正が必要となる可能性も踏まえ、当初の要綱で定めていた令和6年3月31日まで、委員会の設置を継続することが伝えられました。