札幌市は6月28日、北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピック冬季競技大会のガバナンス体制の在り方等を検討する「第2回北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピック冬季競技大会に向けた大会運営見直し案に関する検討委員会」を札幌市内で開催しました。
はじめに、札幌市における大会運営見直し案の検討状況について、事務局より説明が行われました。まず、5月22日に開かれた第1回検討委員会の振り返りをした後、事務局は東京2020大会組織委員会の概要や特殊性、また大会に関連して生じた事案について説明した上で、その事案の影響と解決に向けた札幌市の基本方針を以下の4つに分けて発表しました。
・不正の温床・不祥事再発の懸念
会長や理事を含む組織委員会全体へのコンプライアンス意識の徹底や、理事会機能の形骸化防止、意思決定プロセスの見える化、チェック機能強化等により、不正や不祥事の発生リスクを最小限に抑える組織体制を構築する。
・広告代理店に依存した構造への懸念
マーケティング事業や調達における代理店との関わり方を見直すことで、代理店への過度な依存を防止し、組織委員会による主体的な運営を確保する。
・経費増大への懸念及び税金が投入されることへの不安
経費増大やそれに伴う税負担に対する懸念・不安の払しょくに向け、招致時点における予算を市民へ丁寧に説明することに加え、予算執行や調達を適切に管理する体制を構築する。
・IOCとの開催地契約や重要事項の決定に関する懸念
開催地が一方的に不利益を被るのではないかとの懸念の解消に向け、IOCとは現在の招致プロセスに従って、招致決定前から懸念事項について継続的に対話を重ねるとともに、招致決定後の開催地契約の運用や重要事項の決定等についてもしっかりと協議体制を確保する。
これらの基本方針を踏まえて、事務局は現時点の検討内容における具体的な見直し案を発表。以下の通り、6つの観点に係る札幌市案を実施する必要があると考えているとして、それぞれ説明しました。
・理事会の在り方
【札幌市案】
理事等の役員の選考基準や選考過程を透明化し、一部の理事は公募します。
・利益相反管理の在り方
【札幌市案】
民間企業からの出向者は、関係する部署の長には配置しません。
・マーケティング事業の在り方
【札幌市案】
代理店への過度な依存を防止するため、スポンサー選定における透明化を図ります。
・調達の在り方
【札幌市案】
委託契約は、委託業務範囲を適切に切り分け、原則競争入札で行います。
・情報開示の在り方
【札幌市案】
積極的な情報開示に加えて、主体的かつタイムリーな情報発信を行います。
・実効性の担保
【札幌市案】
強力な権限を有する外部委員会等を設置し、組織委員会を監視・監査します。
続いて事務局から今後の見直し案検討について、今回の委員会で各委員から出された意見を踏まえて中間報告の取りまとめ・公表を行い、今後の市民対話・関係団体等へのヒアリングのたたき台としたいと説明。そして、中間報告に対して寄せられた意見・要望・提案等を踏まえ、本委員会でさらなる議論を深めていきながら、最終的な見直し案を策定・公表していくと述べました。
次に、これまでの事務局からの説明内容を受けて、各委員が札幌市の基本方針、具体的な見直し案についてそれぞれ意見を述べました。
■市民の懸念・解決に向けた基本方針について
武田丈太郎 北海道教育大学岩見沢校 芸術・スポーツビジネス専攻 准教授
「今、世の中が全体的に『共創』、『共存』など『共』という字が入ってくることが多い。スポーツでもスケートボード、スノーボードなどのように『みんなで場を作り上げていく』ものがどんどん出ているのは、一つの世の中の表れ。ですので、組織委員会もしくは招致する市側も、そのような発想で今回の取り組みにしていかなければいけない」
篠河清彦 公認会計士
「予算執行の説明に際して、東京大会と札幌大会の相違点や、札幌大会の予算の根拠を明確にして、札幌大会では東京大会のようなことにはならないのだということを理解してもらえるような対応が必要」
川端絵美 北海道スキー連盟理事 総務本部長
「基本方針の中で、大会によって街がこう変わり、皆さんにとってこのような還元がありますよ、といったことを示すことができると、市民としては非常に安心できるのではないか。もう少し具体的に市民に近づいた形の見せ方を作っていただきたい」
金澤亜紀子 札幌商工会議所青年部 常務理事
「IOCとの開催地契約や重要事項の決定に関する懸念ですが、札幌として、立候補して選んでいただく立場で、主体的に『私たちこうしたいんです』と言える交渉が、実効性があるのか分からず心配」
朝倉由紀子 北海道経済連合会 理事
「やはり市民の方が一番不安に思っているのは、大会が自分たちの生活の負担になるのではないかということ。今の生活が維持されることにプラスして、このオリンピックをなぜ札幌でやらなければいけないのかをきちんと説明できなければ、なかなか賛成を得られないのではないか」
■理事会の在り方について
原田宗彦 大阪体育大学 学長
「今日の記述の中に、女性理事の比率が書いていなかったのが少し残念。IOCが定めるように4割程は女性にするのがいいのではないか。ただ、理事の公募については、非常に重要な責務を負いますし、一つの方向に向かっていく理事会ですので、それを完全公募で募集するのはどうなんだろうかと疑問」
武田丈太郎 北海道教育大学岩見沢校 芸術・スポーツビジネス専攻 准教授
「2030年、34年となると、若者にも積極的に参加してもらえるような仕組みづくりが重要。若者に理事に入れというのはちょっと難しいかもしれないが、やはり若者の意見がしっかりと反映できるような組織体制というのは非常に重要になってくる。また、権限と責任、報酬を明確にし、そもそも理事会や理事は何をするのかを考えていく必要がある」
篠河清彦 公認会計士
「理事会の構成メンバーにはどのような資質を求めるのか、具体的に記載できないか。また、人数はあまり多くなく、なおかつ各理事の担当分野を明確にして、最後は全員で責任を持つという体制が必要」
川端絵美 北海道スキー連盟理事 総務本部長
「女性も必然的に入れていただくということが必要。そして、最初にしっかりと自分の役割というものを理解した上で、いろいろな研修なども行って組織がスタートしていくということを、ぜひともお願いしたい」
朝倉由紀子 北海道経済連合会 理事
「能力はもちろん大事だが、理事の方の人間性をきちんと見て、決めていかなければいけない。また、思っている意見を言うのが女性の強さかなと思っていますので、女性の理事を同じ人数で入れていただくというのはいいのかなと思っています」
國井隆 公認会計士
「理事会に実効性を持たせるには、どういうスキルを持った方が必要かを考え、また人数も東京大会から減らしてしっかり明示することが必要。公募については、少なくともジェンダーだけ、女性だけではなく、多様性についてはある程度確保したい。また、常勤の理事をどれくらい置くかというのもポイント」
大川哲也 弁護士
「公募制自体は前向きに捉えていいのかなとは思うが、具体的にどうするのかを慎重に考えていかなければならない。また、いかに実効的な議論をするかという理事会の仕組み自体をまずしっかりイメージした上で、どういう構成にしていくのかが大事になってくる。株式会社の取締役会で採用しているモニタリングモデルといった工夫はできないのかなど、多方面の観点から考えていく必要がある」
金澤亜紀子 札幌商工会議所青年部 常務理事
「世界的な風潮で、何対何という男女比率も大事ですが、まずもって求められるのは能力。なので、性別よりも最優先すべきは能力であり、まずは知見や能力を持っている方で、少数精鋭としていただくのが一番いいのではないか」
■利益相反管理の在り方について
篠河清彦 公認会計士
「利益相反管理体制をどのように構築するのか、利益相反ポリシーも含めて、ある程度具体化したものを記載したほうがいいのではないか。また、例えば利益相反に関するチェックリストのようなものを作って、何か進めるたびにこのチェックリストで確認する方法を検討してはどうか」
國井隆 公認会計士
「事前により具体的な利益相反ポリシーをきちんと策定していくということがポイント。ある程度事前の準備で、透明性の確保は十分できるのではないか」
■マーケティング事業の在り方について
原田宗彦 大阪体育大学 学長
「2026年の愛知・名古屋アジア大会では複数代理店による共同マーケティングといった枠組みでやっていく動きがある。これを一つのベンチマークとし、札幌市が取るべき方向性ではないか。ただ、マーケティングも2030年あるいは2034年になると周りの風景が変わってくる。テクノロジー系の企業などが参画してくることになるので、前もってそういった対応も含めた未来のオリンピックマーケティングというのを考える必要がある」
畑中悦子 札幌スケート連盟 副会長
「私は競技団体を代表して言えることですが、オリンピックにおいてはスポンサーがとても重要。そのスポンサーのコンプライアンス意識が欠如する可能性がなくなるような、きちんとしたスポンサー制度をお願いしたい」
篠河清彦 公認会計士
「やはり専任代理店方式はもう採用しないということをはっきり明示してしまったほうがいいのではないか」
川端絵美 北海道スキー連盟理事 総務本部長
「大きい大会のスポンサーが持つ役割、意味というものをしっかりと市民の方々に示していただきたい。そこが分からなくては議論のしようも、市民の人たちの理解もないのではないかと感じました」
金澤亜紀子 札幌商工会議所青年部 常務理事
「スポンサーが集まらなくて苦慮するケースもあるかと思いますが、スポンサーを集める側が強く出て、選定基準を明確にして、しっかり選びますと言って集まってくるものなのかどうなのか。この案で大丈夫なのかという点に心配がある」
大川哲也 弁護士
「程度の問題はあるとは思うが、広告代理店に依存せざるを得ないということであれば、力関係や構図の中でいかに実効的な方策が取りうるのか、具体的に考えていかなければならない。それができないのであれば、身の丈にあった大会規模で我慢するしかない」
國井隆 公認会計士
「開催都市としては専任代理店は一方でメリットがあるが、大きな不祥事がありましたので、そのまま使うのはかなり厳しい。『専任代理店をやらない』ということのインパクトはかなり大きいと思うが、その点についてもきちんと議論していかなければならない」
生田圭 弁護士(座長)
「国のプロジェクトチームの指針の中では、専任代理店制度が必ずしも否定はされていないが、仮にまた採用するということになったとしても、相当に具体的かつ実効性が窺われる施策を打ち出さないと、市民の賛同は得られない。専任代理店、複数代理店はそれぞれメリット・デメリットがあるので、さらに議論を進めて、丁寧に最終地点を見つけていかなければいけない」
■調達の在り方について
委員からの言及なし
■情報開示の在り方について
國井隆 公認会計士
「予算について、招致の段階と最後に出された数字は同じ物差しで測れていない。同じ物差しだったらどうだったかということをきちんと把握して、情報公開で丁寧に公開しておくということが大切」
■実効性の担保について
原田宗彦 大阪体育大学 学長
「パリオリンピック組織委員会では2017年から外部委員会を設置して、ガバナンスをチェックする仕組みができていたと思うが、便宜供与や公金の不正使用の問題が起きた。札幌市にはぜひ、何が起きたのか、なぜこの外部委員会が機能しなかったのかを探っていただき、それをもって他山の石とすることがいいと思います」
篠河清彦 公認会計士
「常に見られているというけん制効果は非常に有効。強力な権限を有する外部委員会の設置には私も大賛成で、この外部委員会の中に監査委員会のようなものを設置して、適時に監査できる体制を構築するのがよいと思っております」
金澤亜紀子 札幌商工会議所青年部 常務理事
「組織委員会が解散した後に一個人による不正が発覚した場合の、組織委員会としての責任の所在を明確に記載していただければ、市民の方も安心されるのではないか」
大川哲也 弁護士
「不正を発見するには、職業的に研ぎ澄まされた感覚や高度に専門的な識見が必要。こういった人材をどれだけ集められるか。その意味では通報システムの充実、それを担う人が大事になってくる」
國井隆 公認会計士
「パリの不祥事が開催前に出ているということを注目すべき。今回のように時限的なものについてはリアルタイムでいろいろなものを監視していくという体制が必要ではないか。今までにある監事、内部監査室、外部監査人、そして第三者機関的なもの、その四様できちんと連携を取りつつ、リアルタイムで実効性を担保していくことが必要」
各委員からすべての意見が出されて議論された後、限られた時間の中でさらに充実した議論を行うために、生田座長は検討委員会とは別に、見直し案における6つの観点に関係性がある分野・テーマに絞った部会を複数設置することを提案。各委員から承認されたことで、各部会の委員の構成、設置に向けた要綱の改正などは生田座長と事務局に一任されることとなりました。
委員会の最後に、事務局より今後の進め方についての説明があり、7月に札幌市から市議会へ中間報告を行い、議会後はその中間報告をたたき台として、市民との対話、関係団体等へのヒアリングを行っていくこと、そして、市民対話などの状況を取りまとめた上で第3回検討委員会で報告することが伝えられました。