札幌市は、北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピック冬季競技大会のガバナンス体制の在り方等を検討する「北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピック冬季競技大会に向けた大会運営見直し案に関する検討委員会」を設置し、5月22日に札幌市内で第1回目の委員会を開催しました。
はじめに秋元克広札幌市長が挨拶し、札幌市が招致活動を進めていく中で、昨年夏以降に起きた東京2020大会組織委員会に関連する事件をきっかけに、オリンピック・パラリンピックに対する市民、道民、国民の不安、懸念が増大してきた現状を改めて報告。それらを踏まえた上で「この一連の事案の様々な不安、懸念を払しょくして、新たな運営体制のもと、クリーンな大会を目指していくという強い決意のもとに大会の招致を目指していかなければいけないと考えています。その意味では、国のプロジェクトチームの中で出されたガイドラインに基づきながら、札幌、北海道が大会の招致を目指していくにあたって、大会運営の見直し案を作成し、改めて市民にお示ししていきたいと考えております」と述べました。
続いて、最初の議事として本委員会の座長選出が行われ、出席した委員からの推薦で、「大規模な国際又は国内大会の組織委員会等のガバナンス体制等の在り方検討プロジェクトチーム」の座長も務めた弁護士の生田圭氏が座長に就任しました。
次に、検討委員会の設置要綱についての説明が事務局より行われ、「検討委員会は、大会運営の見直し案策定にあたり、専門知識を持つ有識者等から意見を聴き、より広い視野での課題提起や専門性の高い議論を行うことを目的とする」ことなどが共有されました。続けて招致活動の経緯、大会概要案、大会運営見直し等についての説明も行われ、大会のために新築する施設は0、大会運営費に税金は原則投入しない、招致決定から大会終了までの直接的な経済効果は約7500億円、大会開催後の10年間のレガシー効果は約2兆5000億円と試算していることなどを報告。また、本委員会では「理事会の在り方」「利益相反管理の在り方」「マーケティング事業の在り方」、「調達の在り方」、「情報開示の在り方」の5分野を軸に検討・議論し、具体化していくことなどが説明されました。
事務局からの説明を受けて生田座長は、委員による意見交換の前に、「大規模な国際又は国内大会の組織委員会等のガバナンス体制等の在り方検討プロジェクトチーム」によって今年3月に策定された「大規模な国際又は国内大会の組織委員会等のガバナンス体制等の在り方に関する指針」の経緯、考え方などを補足。この中で生田座長は大規模大会の特殊性や、プロジェクトチームの調査の結果として東京2020大会組織委員会の理事会は適正に機能していたか疑問がある点があったことなどを言及した上で、本委員会でも検討・議論の軸としている「理事会の在り方」「利益相反管理の在り方」「マーケティング事業の在り方」、「調達の在り方」、「情報開示の在り方」の5分野に関して、指針でまとめられた概要を説明しました。
続いて、北海道・札幌2030冬季大会の招致活動や大会運営の見直しについて、各委員から意見が述べられました。
朝倉由紀子 北海道経済連合会 理事
「大会概要を読んで、いかに北海道民、札幌市民にとってオリンピック・パラリンピックは魅力があって、また夢や希望もあり、大きなチャンスなのだと分かる内容でした。ただ、今のところ色々な反対意見が出ていると思いますので、そういったところを払しょくするために、今までに起きた課題を一つひとつ解決し、地元でオリンピック・パラリンピックをなぜ開きたいかという理由、目的を改めて説明していくことが必要なのではないかと感じております」
大川哲也 弁護士
「今年1月8日の報道によると、札幌市民の3人に2人が招致に反対ということです。理由はまさに今回のテーマである汚職への不信、お金がかかるという結論。種々の招致施策を講じても、結局のところ構造的な問題が抜本的に解決できない以上は、同じことが繰り返されると考える人は多いと思います。この会議の結果、多くの市民の方々にご理解をいただいて、反対していた方が賛成に転じるきっかけになるためにはかなり抜本的でインパクトがある、しかも市民の方々にとって分かりやすいという結論を出さなければならないと思っております。非常に難しいことだと自覚しているとともに、こういった点を意識して議論しなければならないと考えております」
金澤亜紀子 札幌商工会議所青年部 常務理事
「オリンピックはどこの都市でもできることではなく、札幌は栄誉あるところに立候補するというのに、なぜこんなに眉間にしわを寄せて、『楽しみだね』という議論ができないことを残念に思っています。子供たちからもオリンピックやウインタースポーツへの興味が足りていないことが、母親として見ていて感じています。汚職の問題などを解決する策があるとすれば、やはり何も関係のない監査の団体を設けるとか、最終最後、全部きれいに終わるまで解散しないとか、市民・国民の皆さんに『札幌は大丈夫』と思っていただけるような透明性を持つしかないと考えております」
川端絵美 北海道スキー連盟理事 総務本部長
「私は72年のオリンピックは2歳で、成長していくこの街と一緒に育ち、オリンピックのマークを見てオリンピアンにもなりました。東京大会の色々な不祥事は選手、関係者にとって大変失礼であり、スポーツがさげすまされた大変残念な結果を受けたものではないか。200万都市で街の中に4m以上の雪が降るところは世界中にはございません。今、ヨーロッパは1500m以上の標高差でも雪が降らない状況が多々起こっております。雪かきが面倒くさいのは痛感していますが、嫌なことをプラスにする、雪に触れられることができる、それをどう示していくかということをできたら良いと思っています」
國井隆 公認会計士
「私が専門としている会計、監査という観点から少し申し上げますと、まずはどんな不正のシナリオ、リスクがあるか、指針に書いてあるものだけではなく、事前に洗い出しておくこと。そして、それに対応する優先順位をあらかじめ考えておくことが必要だと思います。それが事前の準備と途中の準備です。事後の準備は情報公開と監査をしっかりやるなど、インパクトのあることをしていかないと、スポーツ界は『また大人が何か悪いことをやっている』と思われ、スポーツの価値が下がってしまう。そこを我々が『そうではないんだ』ということをきちんと示せる札幌オリンピック・パラリンピックにしていかなければならないと思っていますので、今後しっかりと議論していきたい」
篠河清彦 公認会計士
「オリンピックのような大きな大会になりますと、途中で後戻りすることはできないので、事前の規制、対策がより重要なものになると思います。何とか事前のところで上手い仕組みを作ったうえで、例えばガバナンス、コンプライアンスの研修についても、役員も含めて皆さんに受けていただいて、共通の認識を持つ。そして、これだけ研修を受けているのに、まさかそんな変なことをする人はいないよねという雰囲気を、組織委員会を含めて全体で共有することが大事かと思っております。事前の仕組みは本当に難しいのですが、監査や情報開示は、後手に回る可能性もありますけれど、けん制するという機能は十分にありますので、それも含めてバランスのいい仕組みを作っていければと思っております」
武田丈太郎 北海道教育大学岩見沢校 芸術・スポーツビジネス専攻 准教授
「大会概要を見て、開催後20年、30年、40年経った時に、オリンピックをどう活用していくのか、ソフトの部分がよく見えてこない。逆に言うと、その課題をしっかり解決していけば、市民の皆さんも大会を開催してもいいかなという意識に変わってくる可能性もあるのかなと感じています。また、札幌市は都道府県、他の市、もしくは国と共創関係を作っていかなければならない。その意味では、やはり対話・情報共有が重要。実は市民との関係性も非常に重要であり、2030年までにどのようにやっていくかということを、地道でもいいのでやり続けていくことが機運醸成の一番実直なやり方かなと感じております」
畑中悦子 札幌スケート連盟 副会長
「私はフィギュアを担当しています。1972年札幌オリンピックには役員として参加したのですが、目の前であのジャネット・リンが滑った時は本当に震えました。この感動が果たして2030年に届けられるだろうか。もうあのようなスターが、誰が出てくるか分からないですけれど、出てもらいたいと思っています。ですが、2030年、果たして1972年のように地下鉄が通って、札幌の街が大いに変わったという感じが、2030年にあるでしょうか。そういうところがこれからの情報共有、コミュニケーションで必要になってくると思いますが、頑張って、なんとか大会を迎えなければいけないと思っています」
原田宗彦 大阪体育大学 学長
「北海道の未来を考えた場合、どうやって北海道が現在のレベルを維持していくか、非常に難しい問題です。少子高齢化は待ったなしでやって来ます。そうなると、やはり観光産業が重要で、いわゆるアウター政策で、外から人を呼んできて消費を活性化する。あるいは農林水産業のDX化を図って、さらに北海道らしい実現可能な未来を描いていくことが重要。それを考えると、2030年のオリンピックは手を伸ばせば届くところにある、新たな都市の目標を設定できる最後の機会ではないかと思います。多くの問題が起きましたが、今後の展開を見ていくと、ここでオリンピックを開催するのは北海道、札幌にとって非常に重要なタイミングではないかと考えております」
最後に事務局より、次回の会議は6月下旬を予定しており、札幌市が策定する見直し案の具体的な内容について、それぞれ議論する予定であることなどが伝えられました。