日本オリンピック委員会(JOC)とスポーツ庁は2月10日、「大規模な国際又は国内競技大会の組織委員会等のガバナンス体制等の在り方検討プロジェクトチーム」の第2回会議を開催しました。
はじめに、「大規模な国際又は国内競技大会の組織委員会等のガバナンス体制等の在り方に関する指針(案)」に関して、指針(案)を作成した作業チームの座長を務める生田圭弁護士がその概要を説明しました。
指針(案)をまとめるにあたって、東京2020大会組織委員会の各種規程類や「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会公式報告書」、2022年12月26日に東京都が公表した「東京2020大会テストイベントに係る談合報道に関する調査当面の調査状況について」等の資料調査、諸外国の事例調査、東京2020大会組織委員会の元職員10名へのヒアリング等を昨年11月から今年2月にかけて実施したことを報告。そして、これらの調査、ヒアリング等をもとに作業チームが把握した東京2020大会組織委員会のガバナンスの実情・課題として、「規程類は整備され、それに則った運用はされていたものの、理事会が適正に機能していたかは疑問の余地があること」、「従業員向けのコンプライアンス研修はされていたものの、役員向けの各種研修は行っていなかったようであること」、「東京2020大会への出向者を出向元の企業と密接な関連性を有する部署の長に配置したケース等があり、利益相反管理の観点から人材配置の適切性が確保されていたかは疑問の余地があること」が挙げられました。
これら課題や問題点を踏まえた上で、作業チームはスポーツ団体ガバナンスコード(13 原則)の各原則をもとに、組織委員会等における特有の事情等を考慮し、組織委員会等が適切な組織運営を行う上で遵守すべき11項目の原則・規範を規定。本会議では、その中でも組織委員会等において特に重要な項目として、以下の5つが挙げられました。
・組織委員会等の理事会の在り方
・利益相反管理の在り方
・マーケティング事業の在り方
・調達の在り方
・情報開示の在り方
これら5項目について生田座長は、理事会の適正な規模と実効性の確保、出向者等の適切な人事配置、マーケティング業務に係る意思決定、利益相反の管理を意識した調達制度の構築、主体的かつ積極的な情報開示など、それぞれ本指針の主なポイントを解説しました。
指針(案)の概要説明の最後に生田座長は、オリンピック・パラリンピック競技大会等の開催に伴い特別措置法が制定されるような場合においては、有識者等で構成される外部の委員会等を立ち上げて、外部委員会等の求めに応じた文書等の提出を組織委員会等に義務付けることを提案していると報告。また、東京2020大会のケースのように、組織委員会等が解散した後に問題が発生することも想定して、対応の具体的な方針等についてあらかじめ関係者当事者間で整理して合意しておくことが求められることについても指針(案)としてまとめていると説明しました。
続いて、作業チームのメンバーが今回の指針(案)について補足する形でそれぞれ意見を述べました。
井口加奈子 弁護士
「懸念しているのは、公正・公平を強調するあまり、選手がパフォーマンスを発揮できないような環境になると話が違う。何のためにやっているのかを考えながら実施していく必要があると思います。スポーツ団体関係者にとってはこれまで当たり前だったことが当たり前ではなかいこともあると思いますが、運用していく中で忘れてはいけないのは、選手たちが先にいるということだと思います」
國井隆 公認会計士
「令和元年に一般スポーツ団体向けのガバナンスコードができているのですが、ガバナンスコードの対象外の団体で東京2020大会は運営されていたので、もしかしたらこの考え方が伝わっていなかったのかもしれない、組織委員会は違うというふうに考えていたのかもしれません。ですが、原理原則から考えるとやはりスポーツ団体ということですから、ガバナンスコードの原則6『高いレベルのガバナンスの確保』に沿った自己説明が求められたのかなと、今になって思います。そのような思いをできるだけ指針に入れましたので、皆さんからご意見ありましたら適宜検討していきたいと思っています」
中村友理香 公認会計士
「昨今は大規模な競技大会の開催機運が難しい風潮にあるかと思いますが、私どもが作成した指針が、国民からの信頼、期待に応えることができるような大会運営の一助となるべく活用されることを願っております。また、一度作成して終わりではなく、適宜その時の状況に応じて見直し等も必要になっていくと思いますので、今後も検討が必要になっていくと思っております」
畑中淳子 弁護士
「まずミッションバリューの部分で決めたものを全員が共有して、同じ目標に向かうことが大事。また、大会が終わった後でも公正かどうかをきちんと監視しているか、これが抑止力になると思います。法的責任という意味ではありませんが、組織を組成する時にどこが中心となって最後まで公正さ・透明さを担保するかということを最初に話し合って決めていただければと思います」
次に、発表された指針(案)や作業チームメンバーからの意見を受けて、プロジェクトチームの各構成員から意見や感想が述べられました。
角田喜彦 スポーツ庁次長
「今後この指針が完成した後、私どもスポーツ庁としましても、この指針案に沿って競技大会の組織運営が公平・公正に行われるために、本日お集まりの統括団体の方々とともに大会関係者ともなり得る地方公共団体、あるいはスポーツ団体等にこの指針の内容を周知していくなど、この指針が実効性を持つように取り組んでまいりたいと考えております」
久木留毅 日本スポーツ振興センター理事
「今、開発と平和のためのスポーツ、SDPという考え方が世界の中で一般的になっています。私たちは日本のスポーツ界全体として、招致した国際大会がどのような形で平和と開発につながっていくのかという考え方をしっかり根付かせていかなければいけない。実は私どもの研究スタッフが中心になってSDPのモニタリングと評価の開発ツールを作っておりますので、これを次回発表させていただくお時間を作っていただければと思います」
藤原正樹 日本パラスポーツ協会常務理事
「組織のコンプライアンスの問題ですが、これはルールを決めることと合わせて組織文化を高めていくことが重要だと思います。組織委員会のトップが覚悟を持ってコンプライアンス、ガバナンスを徹底すること。また、公的資金を使う可能性が高い組織委員会の理事になるということは、国民の信頼に沿う責任を伴ってしっかり経営していくということ。そうした文化、トップや理事になられる方々の覚悟を伴わないと完成した組織にならないと思いますので、我々も含めてそのような形で再発防止と信頼回復に努めていきたいと思います」
星野一朗 日本オリンピック委員会専務理事
「JOCでは札幌市とともにクリーンな大会を実現すべく宣言文を出させていただきましたが、今回の指針でより具体的な方向性が明確になったと考えております。一方で、この指針を遵守しているだけで大規模な大会を日本で開催することの理解が得られるわけでもないと考えています。何のためのスポーツ大会なのか。今後の大規模大会におきましても、特に大会を通じて社会をどのように変えていくのか、社会課題の解決にどう貢献していくのかをしっかり示していくことが、皆さまのご理解を得る上では重要だと考えております」
森岡裕策 日本スポーツ協会専務理事
「我々日本スポーツ協会としては、国・地方自治体が主催しております国民体育大会、あるいは国民スポーツ大会等においての本指針の適応は慎重な検討を要するのではないかと考えております。その理由は、国体の実行委員会を拘束する規定・規則の運用は地方自治体の行政の厳しい管理体制のもとで行われ、ガバナンスコードよりも厳しいものになっているのではないかと考えております。このような大会においてはガバナンスコードに準拠することが必ずしも効率的ではないケースも見受けられるので、お作りいただいた指針の内容は大いに参考とさせていただいて、大会個別の事情を考慮した形で一層のガバナンス体制を強化していくことになるのではないかと思います」
次に、オリンピック・パラリンピックの大会組織委員会運営における海外事例について、日本スポーツ振興センターの久木留理事から説明がありました。この中で、特にロサンゼルス2028大会、ブリスベン2032大会は民間主導であること、また、地域社会の中で大会がどのように展開し、影響を及ぼすのかを意識して運営していることが分かってきたと報告。そして、その地域へどのようなものを還元できるか、地域住民がどのように参加できるかという視点が、今からしっかり議論されて進められていることが調査により改めて判明したと説明しました。
続いて、オブザーバーとして参加した札幌市の担当者は、今回の指針(案)に関して「今後2030年大会に向けて具体的な組織をどう作っていくか、大会をどう運営していくかについて、指針の内容を踏まえてさらに検討を進めてまいりたいと思います」と述べるとともに、北海道・札幌2030冬季大会招致活動の現状について説明。「当面は積極的な機運醸成活動を休止し、競技運営体制の見直しやガバナンス体制の検討に注力していきたい」と述べました。また、開催地決定までの今後のスケジュールに関して、2023年度の早い時期に見直し案を公表し、改めて民意を確認したうえで招致実現に向けて取り組む意向を述べました。
同じくオブザーバーとして参加した、2025年に世界陸上競技選手権大会とデフリンピックの開催を予定している東京都の担当者は「国際スポーツ大会への東京都の関与のガイドライン」の概要、大会運営組織のガバナンス確立に向けた体制整備などについて説明。愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会組織委員会の担当者は、今回の指針(案)を受けて「2026年のクリーンな大会運営に向けて、組織委員会として取り組んでいること、これから取り組むべきことが数多くありますが、この指針を参照して透明性・公正性を持った法人として運営していきたい」と述べ、特に利益相反ポリシー、チェック機能の強化を具体的に進め、早急に対応していきたいと話しました。
最後に事務局より今後の予定についての説明があり、2月10日から24日にかけてスポーツ関係団体、経済界等への書面ヒアリングを実施し、その結果を踏まえて検討した後、3月中をめどに第3回プロジェクトチームを開催して指針を取りまとめることとしたいと述べました。