北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピックプロモーション委員会委員で日本パラリンピック委員会(JPC)の河合純一委員長が、9月に行った札幌市内の小学校、視覚支援学校での特別講演に続き、10月27日に札幌市立上白石小学校で特別授業を行いました。
(特別授業の様子)
特別授業は、「だれもが自分らしく」をテーマに小学6年生の教室で行われ、小学5年生、4年生はオンラインで授業に参加しました。授業では、小学校4年生のころから憧れていた「教師になる。」という夢と、その実現に向けて必要となることについて実体験を交え説明しました。
具体的には、15歳のときに失明しながらも、思い描き続けてきた「教師になる。」という夢の実現に向けて行ってきたことの1つとして、「夢を最初からできないと決めつけず、その実現に向けて、具体的にどうすればかなえられるか。」というイメージを持ち続けたことをあげました。目が見えない先生が授業できるのかということも考えたが、目が見えても教師に必ずなれるわけではないし、どうすれば教師になれるか。どうすれば授業を行えるかなど、その実現に向かって必要なことをイメージし、実践していくことの重要性を伝えました。
2つ目として、夢を実現するには努力や工夫が必要で、周囲のサポートも欠かせないことをあげました。教師になるために必要となる大学受験の際には、勉強だけではなく、大学に点字試験への対応をお願いし、様々な協力を得たこと。教員採用試験の申し込みの際にも直接教育委員会に行き、教師になりたいという熱意を伝えたこと。教師になった後も目が見えない中で生徒の情報を把握するため、生徒の声を録音して覚えたことなど、夢を実現するために行った努力や工夫、周囲の変化やサポートなどについて説明し、できないことをあきらめるのではなく、どうしたらできるかを考え、できることからやっていくことによって、周りも大きな変化を生んでいくこと、良い仲間を持つことの大切さを呼びかけました。
また、誰もが自分らしく輝いていける共生社会の実現に向け、そのヒントがパラリンピックにあるとして、東京2020大会の選手村における工夫などについて紹介しました。
エレベータでのボタンの位置や点字の設置、到着階数を知らせる音声の読み上げ、車いすが乗れる広さの確保やバックで安全に降車するための鏡の設置などたくさんの工夫がされていること。食堂におけるドリンクケースの陳列が縦に配置されていることなどがあげられました。
また、視覚障がい者にとって重要な点字ブロックが車いす利用者にとっては段差となっていることから、その解決策をユニバーサルな視点で多くの人で考えた結果、目の不自由な方に大きな安心感を与え、車いす、ベビーカー利用者、また高齢者や全ての人にやさしい段差のないゴム製の「歩導くん」というものが開発されたことなども紹介しました。
最後に、パラリンピックがスポーツの大会だけではなく、大会を通じて共生社会をつくっていくことも目指していることを伝えるとともに、今後、年齢、性別、人種、障がいの有無などに関わらず、自分らしくいられる社会を実現していくためには、お互いの差、個性をすりつぶして混ざり合うのではなく、活かしあえる社会が目指すべきゴールであることを伝え、授業を終えました。
河合委員長による授業の終了後、児童などからの多数の質問が寄せられ、「水泳の練習で大切にしていたことは何か。」という質問に対して、本番を意識して練習を行うことの重要性と説明しました。また、「目が見えなくなったことを乗り越えられたきっかけは何か。」という質問に対して「落ち込んだり、誰かの責任にしても、目が見えるようにはならないし、つまらない。できることはあるので、その中で楽しむことを考えた。」と答えました。また、担任教諭からも「良い仲間を作るためには。」という質問があり、「自分がいい仲間になること。自分が嫌なことを言わないこと、やらないことを心がければ仲間が増えていくと思う。自分が苦しいときにサポートしてくれる仲間を作っていってほしい。」と児童たちにエールを送りました。
河合委員長から特別授業のサプライズとして、パラリンピックで獲得した金メダルが児童たちに手渡され、その重さや輝きだけではなく、河合委員長が金メダルを取るために行ってきた努力と重ね合わせて、児童たちは改めて目を輝かせて感動していました。
(河合委員長に質問する児童)
(金メダルを手に取る児童)
6年生の教室での授業終了後は、オンライン参加していた5年生、4年生の教室へ行き、児童からの質問に答えるなど、交流を深め、授業のお礼として5年生、4年生からはそれぞれ合唱、6年生からは61年の伝統を誇る鼓隊の演奏が行われました。
(教室訪問、鼓隊演奏の様子)
左上から、5年生の教室訪問、4年生の教室訪問、6年生による鼓隊演奏
なお、今回の特別授業の前後では、各学年において国際パラリンピック委員会公認教材『I’mPOSSIBLE』日本版※の「パラリンピアン香西選手ってどんな人だろう?」、「公平について考えてみよう」を使用し、パラリンピアンの持つ勇気や強い意志について学ぶとともに、公平なルール作りについても学習しました。河合委員長の授業には学習への具体的なヒントがたくさん含まれていて、児童にはパラリンピックを通じた共生社会への学びとして貴重な機会となりました。
※ 『I’mPOSSIBLE』日本版は、パラリンピックの歴史や競技を学ぶだけでなく、パラリンピックの中にある工夫や発想の転換をもとに、身の回りの社会を様々なニーズのある人たちにも暮らしやすい場所にしていくために自分にどのようなことができるのかを考えるヒントを学ぶ教材です。
教材の名前『I'mPOSSIBLE』には、「不可能(Impossible)だと思えたことも、ちょっと考えて工夫さえすればできるようになる(I’m possible)」という、パラリンピックの選手たちが体現するメッセージが込められています。