写真:アフロスポーツ


 札幌オリンピックミュージアムで2022年6月6日、小学生を対象にしたオリンピック・パラリンピック教育が実施されました。これは札幌市が推進する「札幌市オリンピック・パラリンピック教育」の一環として市内の小学生向けに開催されており、北海道オール・オリンピアンズに参画するオリンピアン、パラリンピアンを講師に迎え、オリンピック・パラリンピック教育、大倉山ジャンプ競技場の見学、ミュージアム内での展示鑑賞と競技体験を組み合わせたプログラムとなっています。


 また、当プログラムでは社会科において街の学習をする小学校3年生がミュージアムを訪問するケースが多く、この日も札幌市立手稲東小学校3年生の児童92名が参加。児童たちはオリンピアンの体験談やオリンピック・パラリンピック開催に込められた思いなどに真剣に耳を傾け、また展示ブースや競技体験ブースを通じ、オリンピック・パラリンピックをより身近なものに感じている様子でした。


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■オリンピック・パラリンピックが伝える「努力する、諦めない気持ち」


 初めに、スケート/スピードスケートで1984年サラエボ冬季オリンピックに出場した鈴木靖さんによる講話が行われ、まず5つの輪からなるオリンピックシンボルの成り立ちや配色の意味など歴史にまつわる話、オリンピックを開催する目的・意義などを説明しました。その中で鈴木さんはオリンピックを象徴する言葉として、「参加することが大事」というフレーズを紹介。「オリンピックは大会期間中だけ頑張ればいいわけではありません。その日のために何年も何年も頑張り続ける、それが大事なんです。だから、どんな成績で構いません。人生において重要なのは、成功することではなくて目標に向かってずっと努力すること、勝つことではなくてどう戦ってきたかということだと、オリンピックは伝えています」と、この言葉に込められている意味を強調しました。


 また、オリンピアン、パラリンピアンが目指していることとして、大会を通じて「世界平和」を伝え、「仲間への思いやりを持った人」「周りの人への尊敬・感謝・やさしさを持った人」を育てていきたいと語った鈴木さん。これはオリンピック・パラリンピックが掲げている目標でもあり、小平奈緒選手ら世界中のアスリートが過去の大会で体現した尊敬・愛情・思いやりのエピソードを紹介しました。


 そして、これからの未来へ向けて大きな夢を持つ児童たちに向けて「常に夢をかなえたいという気持ちでいれば、夢は必ずかなうと思います。夢をかなえるために大事なことは、諦めない気持ち、チャレンジする気持ちです」とメッセージ。チャレンジした結果、失敗することもありますが、「実はその失敗が大事なことであり、夢に向かっていく階段にもなってより高いところへ上っていける」と力を込めるとともに、「失敗を恐れてすべてにおいて何もチャレンジしない人にだけはなってほしくない」と、児童たちに伝えました。その「諦めない気持ち」の例として鈴木さんは、日本代表選考大会の4カ月前に右足の靭帯断裂という全治2カ月の大けがを負いながら「1秒を大事にして」最後まで諦めずに努力し続けた結果、選考大会で優勝しオリンピック出場という夢がかなった自身のストーリーを紹介。合わせて、中学3年生で2010年バンクーバー冬季オリンピックに出場した後に日本代表から外れるほどのスランプに陥りながらも、「絶対に諦めない」という気持ちで努力を重ね、2018年平昌冬季オリンピック、2022年北京冬季オリンピックの2大会で金、銀、銅メダルを合計7個獲得した髙木美帆選手のエピソードも紹介し、改めて「最後まで戦い続ける気持ちが大事です」と強調しました。


 講話の最後に、今から50年前にアジアでは初めての冬季オリンピック開催となった札幌1972大会を振り返り、「オリンピックは街を変えます」と語った鈴木さん。「オリンピックが開催されたことで地下鉄、空港、高速道路ができ、街が大きく変わりました。そして8年後、この札幌で2度目のオリンピック、初めてのパラリンピックを開催したいと思っています。その札幌2030大会後にどんな街をつくりたいか、それを考えるのは我々の世代ではなく、皆さんたちです。札幌をどのような街にしたいか、ぜひ皆さん方一人ひとりが考えてみてください」と呼びかけました。そして、「私たちも札幌2030大会招致に向けて頑張りますので、皆さんも応援してくれますか? オリンピック・パラリンピックを生で見たいですか?」という鈴木さんからの問いかけに、児童たちはいっせいに「はい!」と大きな返事で答えてくれました。


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■金メダルに直接触れ、重みを実感する貴重な体験


 オリンピック・パラリンピック講話の後、児童たちは学芸員の案内のもと札幌オリンピックミュージアムを見学。オリンピック・パラリンピックにまつわる歴史や実際に使用された競技用具などの展示コーナーでは、1994年リレハンメル冬季オリンピックのスキー/ノルディック複合団体金メダリスト・阿部雅司さんによるメダル体験が行われました。展示されているリレハンメル大会の金メダルを阿部さんから一人ひとり手渡しされた児童たちは「ずっしりとして重かった」「すごくかっこよかった」と、本物の金メダルに触れてその重さを実感できる貴重な体験となりました。


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 また、体験コーナーではシミュレーターや大型スクリーンを使用してスキージャンプ、クロスカントリースキー、スピードスケート、ボブスレー、アイスホッケーのキーパーなどにチャレンジ。それぞれのスポーツを体験した児童たちは「スキージャンプは初めてでちょっと怖かったけど面白かったです」「すごくたくさん飛べてうれしかった」「クロスカントリーを体験して、足をいっぱい使って疲れたけど楽しかったです。選手がすごく大変ってことがわかりました」「スピードスケートで友達の記録を抜いたのがうれしかった。何度でもチャレンジしたい」など、笑顔で感想を話してくれました。


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最後に日本オリンピック委員会から児童たちに向けて、北京2022 TEAM JAPANの伊東秀仁団長、原田雅彦総監督、髙木美帆主将、渡部暁斗旗手、郷亜里砂旗手のサイン入りTシャツがプレゼントされました。



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■児童たちが思い描く北海道・札幌2030冬季大会


 参加児童たちに話を聞いたところ、「たくさん勉強できました」「スキー板が最初は木だったことがビックリしました」「知らないことがたくさんありました」と今回のオリンピック・パラリンピック教育の感想を話してくれました。また、多くの児童が東京2020大会をテレビなどで観戦しており、印象に残ったこととして「金メダルをたくさんとったところ」とTEAM JAPANの活躍を挙げる一方、「勝っても負けてもみんなで励ましあっていた」と語る児童も多く、鈴木さんが講話で語っていた「勝つことが重要ではなく、どのように努力したか、どう戦ったかが大事」というオリンピック・パラリンピックの精神は、東京2020大会を通して子どもたちにも十分伝わったようです。


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 そして、札幌2030大会が開催されたらどのような大会にしたいですか?という質問に対しては、次のような声が寄せられました。

「やさしいオリンピック・パラリンピックになってほしいです」

「パラリンピックでももっと頑張れるように新しい競技が増えるといいなと思います」

「楽しくて、みんなで助け合える大会にしたいです」

「みんなが楽しめるオリンピック・パラリンピックにしたいです」

「楽しくて明るい大会にしたいです」



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 東京2020大会や札幌市のオリンピック・パラリンピック教育を通して、子どもたちの心にはオリンピック・パラリンピックが目指す世界平和、尊敬、愛情などの精神がしっかりと根付きつつあるようです。