オリンピック・パラリンピックStory

世界中のトップアスリートが競い合うオリンピック・パラリンピックでは、勝敗に留まらない様々なストーリーが生まれます。それはオリンピック・パラリンピックが、同じルールのもとでアスリート同士が競い合い、高め合うことを通じ、多様性を認め、お互いに理解しあうことでより良い社会づくりに貢献していくことを目指しているからです。
ここでは、アスリートたちが過去の大会でオリンピック・パラリンピックの価値を体現した名場面、私たちの心を熱くしたエピソードを振り返ります。

東京2020大会ストーリー

Episode 1

スケートボードを愛する仲間たち

写真:PHOTO KISHIMOTO

今大会、追加種目として採用されたスケートボード。女子パーク決勝でのワンシーンが世界中を感動に包む大きな話題となった。世界ランキング1位で臨んだ15歳の岡本碧優選手、予選を1位で通過しメダルへの期待も高まったが、最終ランで最後のトリックを決めることができずに転倒、4位という結果になった。転んでしまい悲しげな表情を見せる岡本選手のもとに、ともに戦った選手たちが声をかけながら次々に駆け寄る。そして、最後まで果敢に攻めの滑りを続けたその姿勢をたたえると、ポピー・オルセン選手(オーストラリア)とブライス・ウェットスタイン選手(アメリカ)が彼女を抱え上げたのである。勝敗や順位を超え、スケートボードを心から愛する仲間たちによる熱き友情が生み出した美しい光景がそこにはあった

写真:PHOTO KISHIMOTO

Episode 2

メダリストたちのリスペクト

写真:アフロスポーツ

体操競技男子団体決勝、惜しくも銀メダルとなった日本チームは、金メダルのロシアオリンピック委員会(ROC)、銅メダルの中国を含めてライバルチームに歩み寄り笑顔で握手を求めた。それから2日後の男子個人総合決勝では、橋本大輝選手が金メダルを獲得。銀メダルの肖若騰選手(中国)、銅メダルのニキータ・ナゴルニー選手(ROC)とそれぞれ抱き合い、互いの健闘をたたえ合った。メダリスト会見、ナゴルニー選手は「ハシモトは19歳という若さにもかかわらずオリンピック王者にふさわしいアスリートだ」と称賛。体操界の若きトップアスリートたちが互いにリスペクトし合う姿印象的だった。

写真:アフロスポーツ

Episode 3

激闘の後のノーサイド

写真:アフロスポーツ

スピードあふれる試合ぶりで世界に大きなインパクトを与えたのが、バスケットボール女子日本代表の躍進だった。予選リーグから強豪国を次々と破って決勝に進出。最後はアメリカに一歩及ばなかったが日本バスケットボール史上初となる銀メダル獲得を果たした。彼女たちの戦いぶりは素晴らしかったが、表彰式後がさらに印象的だった。金メダルのアメリカ代表、銀メダルの日本代表、銅メダルのフランス代表と3チームのメダリストたちが混ざり合っての記念撮影。国の垣根を越えて互いの健闘をたたえ合う選手たちの姿は大きな話題を呼んだ。

写真:アフロスポーツ

Episode 4

ライバルは共闘する仲間

写真:アフロスポーツ

今大会から新たに加わった競技、スポーツクライミングの特徴の一つが「オブザベーションタイムタイム」と呼ばれる、選手同士による観察の時間である。ボルダリングとリードの2種目では、壁に設置された「ホールド」と呼ばれる石の配置を観察する時間が与えられる。出場選手は全員で双眼鏡を片手に隅々までホールドを確認していくのだが、驚くべきはライバル選手たちと相談しながら攻略手段を練ることだ。選手たちは順位を争うライバルでありながら、難しい壁に挑む「仲間」でもある。女子ボルダリング・リード・スピード複合で銀メダルを獲得した野中生萌選手と銅メダルの野口啓代選手が、金メダルを獲得したヤンヤ・ガルンブレト選手(スロベニア)とともに見せた表彰式での表情に、このスポーツの魅力が詰まっていた。

写真:アフロスポーツ

Episode 5

笑顔なき金メダリストの感謝

写真:PHOTO KISHIMOTO

柔道男子73kg級で連覇を果たした大野将平選手は、試合後深々と一礼をすると柔道の聖地・日本武道館の天井をしばらく見上げ、畳を下りた。2016年リオデジャネイロオリンピックの優勝時同様、ガッツポーズも笑顔もなかった。「苦しくてつらい日々を凝縮したような1日の戦いでした」と振り返った大野選手。そんな彼を、「今まで見てきたなかで最強の柔道家」と評するのは、今大会での勇退を表明した井上康生監督だった。大野選手は「9年間、私の柔道人生は井上康生監督とともにありました。井上監督の体制でオリンピック2連覇を達成できたこと、戦えたことは幸せでした」と、師への感謝を口にした。

写真:PHOTO KISHIMOTO

Episode 6

「友よ、歴史だ」二人の金メダリスト

写真:アフロスポーツ

陸上競技男子走高跳決勝、ムタズエサ・バルシム選手(カタール)とジャンマルコ・タンベリ選手(イタリア)は1度も試技を失敗することなく2m37cmを跳んで並んだ。続く2m39cmは二人とも3回の試技を失敗。勝負を決するジャンプオフに挑むかを審判員に尋ねられたバルシム選手は「友よ、歴史だ。オリンピックチャンピオンだ」とタンベリ選手に語りかけ、互いの金メダルを選択した。2012年ロンドンオリンピックは銅メダル、16年リオデジャネイロオリンピックは銀メダルだったバルシム選手。一方、リオデジャネイロオリンピックを足首のケガで欠場したタンベリ選手。互いに高め合ってきたライバルで親友同士の二人が、揃って悲願の金メダルを獲得した。

写真:アフロスポーツ

Episode 7

アクシデントから生まれた友情

写真:アフロスポーツ

陸上競技男子800m準決勝3組、アクシデントが起きたのは3コーナー手前のことだった。団子状態の選手たちがラストスパートに入ろうとしたところ、アイザイア・ジューイット選手(アメリカ)は自らの脚がからまり転倒、その直後を走っていたニジェル・アモス選手(ボツワナ)も巻き込まれて転んでしまった。失意のまま座り込んでしまった二人だったが、片膝をついたままがっちりと手を握り合って立ち上がると、再びゴールを目指して並走し、ゴールを果たして抱擁した。同組で走った各国の代表たちもその様子を笑顔で出迎えた。

写真:アフロスポーツ

Episode of Paralympic 1

競い合えるライバルがいたから

写真:PHOTO KISHIMOTO

東京2020パラリンピック、競泳男子100mバタフライ(視覚障害S11)でワンツーフィニッシュを果たしたのが、金メダルの木村敬一選手と銀メダルの富田宇宙選手だった。「ずっと頑張ってきたから」と木村選手がいうように二人は涙に暮れた。木村選手の努力をずっと間近で見てきたという富田選手は「本当におめでとう」と気持ちを示しつつ、木村選手に続く2着でゴールしたことを素直に喜んだ。「宇宙さんが高いレベルで競い合えるライバルで居続けてくださったことは、僕がプレッシャーに押しつぶされることなく勝ち切れた要因。僕を世界チャンピオンまで押し上げてくださった」と木村選手はライバルへの感謝を口にした。

写真:PHOTO KISHIMOTO

Episode of Paralympic 2

レース直後のプロポーズ

写真:アフロスポーツ

今大会、陸上競技女子200m(視覚障害T11)予選での一幕が話題となった。主役となったのは、予選4組に登場した西アフリカの島国・カーボベルデのケウラニドレイア・ペレイラセメド選手。レースは33秒04で最下位の4着、予選敗退という結果だったが、この後にサプライズが待っていた。ペレイラセメド選手のもとを離れたガイドランナーのマヌエルアントニオ・バスダベイガさんは、しばらくして戻ってくると、ゴールライン付近でひざまずきプロポーズ。快諾した彼女の左手薬指に指輪をはめ、熱い抱擁を交わす二人に、同組の選手や周囲のスタッフたちも祝福の拍手を贈った。

写真:アフロスポーツ

Episode of Paralympic 3

片翼の小さな飛行機

写真:アフロスポーツ

パラリンピック開会式で披露されたパフォーマンス「片翼の小さな飛行機」が世界中に感動を呼んだ。ヒロインを演じた13歳の和合由依さんは、生まれつき下半身と左手に障がいがあり、普段は電動車いすで過ごす。母のすすめを受け、「今の自分を見てほしい」とヒロインのオーディションに臨んだ和合さんは、約5,000人から見事にその大役を射止めた。手動の車いすで演じることについても「自分で走りたい」とトレーニングを積み挑んだ和合さんは、片翼しかない小さな飛行を見事に演じ切り、巨大な滑走路から飛び立ってみせた。スタジアムに浮かび上がる「WE HAVE WINGS(私たちには翼がある)」の文字は、パラリンピアンの、そして彼女自身の思いを示すかのようだった。

写真:アフロスポーツ

北京2022冬季大会ストーリー

Episode 1

先輩レジェンドからの熱きねぎらい

写真:PHOTO KISHIMOTO/アフロスポーツ

スピードスケート女子1000mを制したのは、2018年平昌オリンピックでは同種目銅メダルだった髙木美帆選手だった。北京2022冬季オリンピック最後の滑りで1分13秒19のオリンピックレコードをたたき出し、見事金メダルに輝いた。今大会、TEAM JAPANの主将も務め、5種目7レースに出場し金1個・銀3個と合計4個のメダルを獲得する大活躍を見せた新女王。そんな髙木選手にハグをしてたたえたのが、同種目10位に終わった小平奈緒選手だった。ライバルとしてしのぎを削ってきた偉大な先輩からのリスペクトが詰まった心温まるシーンだった。

写真:PHOTO KISHIMOTO/アフロスポーツ

Episode 2

勇敢な挑戦をたたえ合う仲間たち

写真:アフロスポーツ

スノーボード女子ビッグエア決勝。2本目を終えて4位だった日本の岩渕麗楽選手は、3本目に女子初の超大技「フロントサイド・トリプルアンダーフリップ1260」に挑んだ。着地後に転倒したものの、世界中を驚かせるチャレンジだった。これに驚いたのは観客だけではなかった。滑り終えた岩渕選手に、試技を終えた選手7人が次々に駆け寄り、抱き合って岩渕選手を称賛する感動のシーンが生まれた。2大会連続の4位となった岩渕選手は涙を見せながらも「最後チャレンジできて良かったです。競っていた選手に一緒に喜んでもらえて良かった」と語った。

写真:アフロスポーツ

Episode 3

切磋琢磨してきたライバルへの称賛

写真:アフロスポーツ

スノーボード男子ハーフパイプ決勝。2014年ソチ、18年平昌とオリンピック2大会連続銀メダルだった平野歩夢選手は、最終となる3本目で逆転し、日本スノーボード史上初となる金メダルを獲得した。平昌オリンピックでは最終試技での逆転で金メダルを獲得し、06年トリノ、10年バンクーバーと合わせてオリンピックを3度制したレジェンドで、今大会での引退を表明していた、ショーン・ホワイト選手(アメリカ)は4位となった。試合を終えた新旧王者たち。二人のライバルが互いの健闘をたたえ合い抱擁する姿は見ている者たちの感動を呼んだ。

写真:アフロスポーツ

Episode 4

悲劇のヒロインにハグするヒーロー

写真:アフロスポーツ

ジャンプ混合団体は、4カ国計5選手のジャンプがスーツ規定違反で失格となる大波乱の試合展開となった。日本チームも一番手としてビッグジャンプを見せた髙梨沙羅選手がまさかの失格。ショックを受けて動揺し、涙に暮れる髙梨選手を気遣うチームメートたち。今大会男子ノーマルヒル個人で金メダル、男子ラージヒル個人で銀メダルと2個のメダルを獲得したエース・小林陵侑選手は「たくさんハグしてあげました」と語ったように髙梨選手を抱きしめ慰める姿が印象的だった。それでも日本ジャンプチームは4位入賞、まさに底力を見せつける結果となった。

写真:アフロスポーツ