写真:フォート・キシモト/JOC


北海道・札幌2030大会の招致スローガンが10月27日、『世界が驚く、冬にしよう。』に決定しました。大会プロモーション委員と大学生ら若い世代が一緒になって作り上げたこのスローガンの策定の経緯や言葉に込められた思いなどを、招致スローガン策定ワーキンググループの木村麻子座長に伺いました。

 

写真:フォート・キシモト/JOC



■本質と原点に立ち帰る意味で若者たちの力はすごく重要

 

――10月27日に北海道・札幌2030大会の招致スローガン『世界が驚く、冬にしよう。』が発表されました。周囲の反響、反応はいかがでしょうか?

 

私の周りではこのスローガンが出来上がったことをすごく喜んでいただいている方が多くて、非常に好意的な反応が多いです。「良いスローガンができたね」「分かりやすくてワクワクするね」というポジティブな反応が多かったです。

 

――では、スローガン策定のお話をお伺いできればと思います。今回、ワーキンググループメンバーの意見をまとめていくうえで心がけたこと、またオリンピック・パラリンピックに対する新たな気づきなどがあれば教えてください。

 

やはり多様性というものをしっかりと表現したいという思いがあり、ワーキンググループ自体も多様性を意識したグループを作っていただきました。もちろん、皆さんはそれぞれしっかりとした考えをお持ちなのですが、自分の考えを素直に話しやすい雰囲気作りを心がけていました。また、今回は若い世代の人たち、特に実際に現地在住でこれからの札幌に期待を持ち、あるいは不安も抱いている若者たちにもワーキンググループにたくさん入っていただいていたので、若者たちが話しやすい雰囲気を作るために、また彼らと打ち解けるために最初にコミュニケーションをとらせていただきました。そうすることで安心して考えを話していただけるような空気作りを心がけていました。

限られた時間での策定でしたが、広く札幌市民、北海道民、全国民の方たちにお伝えするワードを生み出すという今回のプロセスはすごく良かったなと思っています。多様性がギュッと凝縮されたワーキンググループの中で、色々な意見を出しながら楽しくやらせていただきました。プロモーション委員会のメンバーはオリンピアン、パラリンピアンの方たちが多く、実際に大会を経験して様々な意見をお持ちで、また経済界などの方たちも含めて本当に専門家集団と言えるものだと思います。でも、そのような専門家だけで考えてしまうと、どうしても考えが偏りがちと言いますか、生活と理想とでかけ離れてしまうところがどうしてもあると思います。ですので、あえてワーキンググループを作っていただき、若い方たちや多様性に富んだ小さなグループでギュッと凝縮して、すごく話しやすい雰囲気で意見交換をさせていただいていました。その内容をプロモーション委員会にお示しして、それに対する各委員のご意見をいただいて、一般の方に投票してもらうというプロセスがすごく良かったと感じています。

 

――今回の招致スローガン策定ワーキンググループで特徴的だったのは、木村座長に説明いただきました通り、若者世代の学生が多く入ったことだと思います。学生たちの力、意見はどのような役割を果たしましたか。また、木村座長ご自身は学生たちの考えについてどのような感想を持ちましたか?

 

やはり学生さん、若い世代の方たちは物事に対してとらわれていないんですよね。シンプルに北海道・札幌のこういうところが好き、こういうところを誇らしく思っている、こういうところがよく分からない、といった意見を正直に出してくれます。そうした考えは当たり前のようでいて、実際には専門家のプロフェッショナル集団は忘れがちになってしまう。オリンピック・パラリンピックの招致はただのスポーツの祭典ではなく、人を育てて街をつくって未来をつくる“未来創造プロジェクト”なんだと、原点に帰らせていただくような気付きがたくさんありました。おそらく、ワーキンググループに入っておられたプロモーション委員会の専門家集団の方たちも同じことを思われたと思います。

毎回テーマを決めてディスカッションを回したのですが、一巡して若者たちの意見を聞くと、二巡目で皆さんの考えがちょっとずつ変わってきたりするんですよね。ですので、そうした本質と原点に立ち帰るという意味で若者たちの力はすごく必要で重要でしたし、同時に若者たちも専門家の大人の意見を聞くことで、自分たちのシンプルな考えにいろいろな多様性、経験などの知恵や実状を踏まえて考え方が成長していることが、私たちも見ていて感じるところがありました。こうした議論をする過程でオリンピック・パラリンピックの意義や意味と言うものが若者たちの中でも育っているのだなということを非常に感じさせていただきました。

 

――学生と一緒にこの一連の活動を経験し、座長として改めて感じたことはどのようことでしょうか?

 

この招致を目指している北海道・札幌2030大会は、本当に変えていこうという決意を持った大会なのだと感じています。もともとそのような意味も込めまして、プロモーション委員会自体もオールジャパンの組織をしっかり作って挑戦してきたと思っているのですが、これからの在りかたが問われる中でこうして実際にやっていることの意義を、私はスローガン策定の過程の中で感じていました。このオリンピック・パラリンピックはスポーツの祭典というだけではなく、ある意味では国家的なプロジェクト。国というものは国民一人ひとりの考え方や行動でできているのだと思いますが、今まではみんなで考えて、みんなで何かを目指して行動することはありそうで、なかなかなかったのではないかなと思っています。誰かがやっていることに対して傍観者になって、それに対して意見を言うような形になっていたのではないかなと。そうした中で、オールジャパンでスポーツ、街づくり、経済、教育などあらゆるジャンルの人たちが理想に向かって一緒に尊重し合いながら、作りあげて生まれたこの招致スローガンはまだまだ小さな一つだと思うのですが、こういうことの繰り返しがこのオリンピック・パラリンピック招致の本当の意義だと非常に感じています。

 

――木村座長のお話を聞いて、多様性や持続可能性というものがよく見えてくるスローガン策定の過程だと思います。

 

札幌市の皆さまや行政、メディアの方たちなどみんなの思いや努力が、若者たちも加わったことですごく見えてきたのではないかなと、私自身思っています。今回のプロジェクトに関わらせていただいて、皆さんが本当にこの国、地域の未来のために一生懸命頑張っている姿を私も見させていただきましたし、プロモーション委員会の方も見させてもらいました。このことがこの先、すごく大きな何かになっていくと私は感じています。それはもう感謝という言葉しかないですね。何事も当たり前ではないという感謝。自分自身が変わっていくこと、ワーキンググループは少人数でしたが、ここにいたメンバーはみんな何かを学んだのではないかなと思っています。


写真:フォート・キシモト/JOC


■みんなの合言葉、心の真ん中にある共通の思いとして

 

――それでは改めてとなりますが、『世界が驚く、冬にしよう。』という招致スローガンに込められた意味、そして木村座長が込めている思いをお聞かせください。

 

『世界が驚く、冬にしよう。』というのは、ワーキンググループで作成した最終候補案3つの中の1つだったわけですが、市民、道民、国民の皆さまの投票で圧倒的に支持してくださる声が多かったです。では、なぜこのスローガンに支持が集まったのかと言いますと、やはり希望を感じるから、そして『冬にしよう。』という部分は「一緒にやっていこう」というメッセージ性が強いからだと思っています。ですので、北海道・札幌2030大会は「みんなでやろうよ!」という思いを私自身は持っています。この大会はみんなのものであり、みんなでワクワクして希望を持とうよということを伝えたいとすごく思っていたのですが、結果としてそのような思いが込められたスローガンになりましたし、案自体は私たちで用意しましたが、これは市民、道民、国民の皆さまで決めたものとなりました。ですので、このスローガンがみんなの合言葉、心の真ん中にある共通の思いとして、ワクワクするような希望を持つ起爆剤のようなものになってくれたらなと思います。

 

――スローガンにちなみ、木村座長はどのようなことで世界を驚かせたい、世界に驚いてほしいと思っていますか?

 

世界的に見てもこれだけ豊富な天然の雪資源は珍しいことなのでその部分で驚かせようとか、文化的な魅力で驚かせようという話はたくさん出ていましたが、きっと想像できることはすごく一部のことに限られてしまい、逆に想像できないような驚きの要素はすごくたくさんあるのだろうなと思うんです。ですので、一番驚かせたい、自分も驚きたいなと思っていることは「そんなことがあったの?」という発見ですよね。まさかこんなことが起きるなんて、こんな魅力があるなんて、こんな可能性があるなんて……という、誰もが想像しなかったような新しい何かが生まれたらいいなと思っています。今の質問の答えになっていないかもしれませんが、何で驚かせようと思っているかと問われれば、まだ見ぬ何か、まだ私たちが気づいていないような可能性の創出。雪や今の目に見えるものはもちろんのこと、これから生まれてくる何かで世界を驚かせることができたら、すごく素敵だなと思います。

 

――2030年までにどのような文化、テクノロジーが生まれるのか想像もできません。その中で北海道・札幌ならではの、世界どころか地元の方たちも驚いてしまうような何かが生まれるといいですね。

 

やはりオリンピック・パラリンピックなどは、人類があらゆる可能性に向かって常に挑戦し、今を超えていく一つのきっかけになるものだと思っています。またそれらは、世界はそれぞれ別々のようで実は一つだよという、人類の絆を結ぶものだと思っているのですが、これからの地球、世界が向かっていく先というのは人と自然の共生。つまり、目の前にある物が当たり前ではなくて、共にあるということに対して思いを馳せ、尊重し合いながら共生することに知恵を出して、新しいまちづくりや国づくり、人としての新しい在りかたを模索していこうよという方向に、今向かっているのかなと私は思っています。ですので、大会の開催を目指している2030年というのはちょうどSDGsの最終年度というところも運命的ですよね。その時に北海道・札幌でオリンピック・パラリンピックがもしも実現されるのであれば、SDGsの象徴的なものになることは素晴らしいなと思いますので、人類の希望ある豊かな未来に貢献できるモデルになるような新しい何かを生み出し、驚かせるものができたら本当に素晴らしいのではないかなと思っています。

 


■これからの未来をつくっていくんだという気概と希望を

 

――それでは最後に、札幌市のまちづくりなども含めて北海道・札幌2030大会に期待していることを教えてください。

 

今、日本は人口が激減していて、将来への希望を描けない、不安を抱いている若者たちもすごく多いと思います。ですが、今があるのは今までの人たちがいるから、今の札幌があるのは今までの先人たちが本当に努力し、困難を乗り越えてつくりあげてくれたからこその「今」であると思います。そして、若い世代の人たちには今があることに対する感謝と、自分たちがこれからの未来をつくっていくんだという気概と希望を、このオリンピック・パラリンピックを通じて生み出してほしいなと思っています。この北海道・札幌2030大会がそういう機会になり、それが全国に広がって、この日本が感謝と希望にあふれた国になったらいいなと、すごく思っています。そして、この日本がより豊かになっていくために、札幌が持続可能で多様性に富んだモデルになるような街になっていたらいいなと思いますね。それは過程でもいいと思っています。すべて完ぺきになることはないと思いますので、札幌がそういう方向のモデル都市になり、世界が驚いてまた見に来る人を連れてくる、つながりたくなるような街になっていたら、とても素晴らしいなと思っています。

 

――北海道・札幌2030大会が開催されたら、オリンピック・パラリンピック自体にとってもそうですが、日本、あるいは世界にとっても大きなターニングポイントとなる大会になるのではと、木村座長のお話をお伺いする中で思いました。

 

そうですね。絶対にそうなってほしいし、そうしたいなと思いますよね。今、オリンピックはメディアなどで良くない報道も出ていて、私の周りの友人などからも「大変だね」と言われることもあります。でも私としては、大会の開催は北海道・札幌のことだけではなくて日本にとってものすごく大きなことなのですよと、皆さんに思っていただきたいなと思っていますし、自分の周りの人たちにはそのことをすごく伝えています。北海道・札幌2030大会は本当に日本の希望の光だと思っています。

やはり大事なのは、みんなが笑っていることだと思うんです。いいこと、悪いことのどちらもあった場合、これを難しいねと言うこともできますが、逆に楽しいね・希望を持てるねと言うこともできる。それは自分たち次第だと思います。できる限り明るい雰囲気にしていくことが大事だし、だからこそ若い人たちや子供たちと一緒にできること、理想を描けることをたくさんつくっていけたらなと思います。それこそ、「何で世界を驚かせるかコンテスト」とかを開催したら面白いかもしれないですよね(笑)

 



■木村麻子(きむら・あさこ)

北海道・札幌2030オリンピック・パラリンピックプロモーション委員会委員。日本商工会議所青年部筆頭副会長。