写真:アフロスポーツ
スキー/ノルディック複合で1988年カルガリー冬季大会、1992年アルベールビル冬季大会、1994年リレハンメル冬季大会とオリンピックに3大会連続で出場し、リレハンメル大会では団体で金メダルを獲得した阿部雅司さんに、オリンピックで学んだ大切なこと、オリンピックを通して未来を担う子どもたちに伝えたいこと、そして北海道・札幌2030大会招致への思いをお伺いしました。
■「ジャンプやノルディック複合は日本人にすごく合っている」
――阿部さんがスキージャンプを始めたきっかけを教えてください。
自分は小学校3年生の時に先生に勧められて始めました。最初は先生と父親がスコップで小さなジャンプ台を作るところから始まって、翌年から20m級の小さなジャンプ台で飛び始めました。僕が最初に大倉山を飛んだのは高校3年生の時だったんですけど、すごく怖くて、近くのホテルで合宿していたのですが、荷物を全部まとめてスーツケースのふたを閉めて、その上に保険証を置いて、ジャンプ台に来たのを覚えています。
――それは何があってもいいように、ですか?
そうです。もし、けがをしたら病院にそのまま行ってもいいように身の回りの整理をしてからジャンプ台に行きました(笑)。それくらい怖かったのを覚えていますね。
――ジャンプ人口はどのように変化していますか?
かなり減ってきていますね。ただ、北京2022冬季大会での小林陵侑選手の活躍でジャンプをやってみたいという子がすごく増えて、体験会などを開催するとたくさんの子どもたちが来てくれるようになりましたね。
――これからのスキージャンプ界はどのようになっていってほしいと思っていますか?
今、ワールドカップで総合優勝する小林陵侑選手がいますし、ノルディック複合では渡部暁斗選手が3大会連続でオリンピックのメダルをとりました。競技人口を考えれば、野球、サッカーと比べると本当に少ないんですが、その中でも世界一の選手が出てくるということは日本人にすごく合っている競技だと思っていますので、これからも世界で活躍する選手が出てくると思いますし、もっともっとたくさんの人に挑戦してみてほしいなと思いますね。
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■「結果よりも一生懸命努力すること。それが大切」
――さて、本日(2022年6月6日)は札幌オリンピックミュージアムで札幌市オリンピック・パラリンピック教育が実施され、阿部さんも講師として参加されました。子どもたちにとって今日の経験は一生の思い出に残るのではないでしょうか?
そうですね。特に自分のことで言いますと、展示してあるメダルをガラス越しに見てもらうのではなくて直接手に取ってもらって、心に残してもらいたいと思っています。
――今回のようなオリンピックミュージアムでのオリンピック教育はどのような思いで続けられているのでしょうか?
やはりスポーツの良さ、スポーツの力を子どもたちに知ってもらって、勉強だけじゃなくてスポーツも一生懸命取り組んで、人生の支えにしてほしいなと思っています。
――阿部さんの人生において、オリンピックとは?
自分はオリンピックに3回出場したのですが、1回目も2回目も結果ばかり気にして、失敗してしまいました。でも、3回目の出場の時は結果を追い求めるのではなくて、自分の力を出し切ること、全力を尽くすことだけに一生懸命努力したんですね。その結果、金メダルをとることができて、やはり人生において大事なことは、結果よりもそれに向かって一生懸命努力すること、それが大切なことなのではないかと学ばせていただきました。
――北京2022冬季大会で渡部暁斗選手にインタビューさせていただいた時も、阿部さんと全く同じことをおっしゃっていました。
やはり初めてのオリンピックとなると、どうしても結果だけを追ってしまうこともありますが、2回目、3回目になると、そのオリンピックで気付かせてもらうことって本当にたくさんありますね。
――オリンピックに出場して、競技以外で印象に残った出来事はありますか?
自分がメダルをとったのはノルウェーのリレハンメル1994冬季大会でしたが、ノルディック複合競技はノルウェーにとって国技のようなスポーツなんですよね。その国技で、ノルウェーの人たちにとってはライバルである僕たちの方が活躍しているのに、その僕たちにも一生懸命応援をしてくれたノルウェーの方々というのは僕たちの心にすごく残りましたし、「ああ、これが本当の世界の平和の祭典だなぁ」ということを改めて気付かせてくれました。今、残念ながら世界では戦争が行われていますが、自分がオリンピックに参加している時はそうした敵対心のようなものは全く感じず、ライバルである僕たち日本人のことも快く応援してくれて、すごくスポーツっていいなと感じたのを今でもはっきりと覚えています。
――オリンピックミュージアムでたくさんの子どもたちに関わる機会も多いと思いますが、子どもたちにオリンピックを通してどのようなことを伝えて、どのようなことを学んでほしいですか?
目標に向かって一生懸命努力すること、それを忘れないでほしいなと思っています。あとは、自分を支えてくれている家族、お父さん、お母さん、友達、先生など、周りの支えへの感謝の気持ちをしっかり忘れないでほしいなと思っています。
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■「北海道はすごくいい土地だと、世界中の人たちに感じてほしい」
――北海道・札幌2030冬季大会の招致についてお伺いします。北海道・札幌にとっては2度目のオリンピック、そして初めてのパラリンピック開催に向けて、現在取り組まれていると思いますが、どのような大会にしたいという思いがありますか?
世界中から北海道にたくさんの選手や関係者が来ると思いますが、出迎える私たちが笑顔でおもてなしをして、北海道の人たちはすごくいい人たちだな、北海道はすごくいい土地だなということを皆さんに感じてもらって、それを世界中に持ち帰って発信してほしいなと思っています。そうすることによって、これからもっともっと札幌、北海道が世界中から人が集まる素晴らしい地になるのではないかなと思っています。
――東京2020大会を経て、北海道・札幌2030冬季大会はその経験などを生かせる大会になるのではないかと思いますが、阿部さんご自身は東京大会から札幌大会へどのような思いを抱いていますか?
東京2020大会はコロナ禍で開催されましたが、日本だからこそ開催できた大会だと思っていますし、それは物凄く自信を持っていいことだと思います。北海道・札幌2030冬季大会の時には本当に世界中の人たちが見に来てくれて、実際に選手たちの頑張りで感動して帰っていただけるような、リアルな大会を開催できるように努力していきたいと思います。
■阿部雅司(あべ・まさし)
スキー/ノルディック複合で1988年カルガリー冬季大会、1992年アルベールビル冬季大会、1994年リレハンメル冬季大会と3大会連続でオリンピックに出場。リレハンメル大会では団体で金メダルを獲得。
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